市場の揉め事、税金の陳情なぞ、あらん限りのイザコザを持ち掛けて来る上に、序《ついで》だからというので子供の名附親から、嫁取り、婿取りの相談、養子の橋渡し、船の命名進水式、金比羅《こんぴら》様、恵比須《えびす》様の御勧請《ごかんじょう》に到るまで、押すな押すなで殺到して来る。その忙《せわ》しい事といったらお話にならない。
しかし吾輩は嬉しかった。何をいうにも内地から遥々《はるばる》の海上を吾輩が自身に水先案内《パイロテージ》して、それぞれの漁場に居付かせてやった、吾児《わがこ》同然の荒くれ漁師どもだ。その可愛さといったら何ともいえない。経費なんかはどうでもなれという気になって、東奔西走しているうちに妙なものだね。到る処の漁村の背後に青々《せいせい》、渺茫《びょうぼう》たる水田が拡がって行った。同時に漁獲がメキメキと増加して、総督府の統計に上る鯖《さば》だけでも、年額七百万円を超過するという勢いだ。その又一方に組合費の納入成績はグングン下落して、何とも云いもしないのに、タッタ一人の事務員が尻に帆をかけるという奇現象を呈する事になったが、それでも吾輩喜んだね。鮮海漁業の充実期して待つべし…
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