…更に金鞭《きんべん》を挙げて沿海州に向うべし……というので大白を挙げて万歳を三唱しているところへ、思いもかけないドエライ騒動が持ち上って来た。ウッカリすると折角《せっかく》、根を張りかけた鮮海の漁業をドン底までタタキ付けられるかも知れない大暴風《おおあらし》が北九州の一角から吹き初めたもんだ。
 ……というのはほかでもない。海上の大秘密……爆弾漁業の横行だった。
 ところで又一つ脱線するが、ここいらで所謂《いわゆる》、漁業界の魔王、爆弾漁業の正体と、その横行の真原因を明らかにしておかないと困るのだ。世間に知られていない……永いこと官憲の手によって暗《やみ》から暗《やみ》に葬られて来た事実だが、実は今夜の話の興味の全部を裏書する重大問題だからね。
 何だ……大いに遣ってくれ。非常に参考になる……ウン遣るよ。徹底的にやるよ。君なんか無論初耳だろうが、実に戦慄すべき国家問題だからね。
 由来海上の仕事には神秘とか、秘密とかいう奴が、滅法矢鱈《めっぽうやたら》に多いものだが、その中でもこの爆弾漁業という奴は、超特級のスゴモノなんだ。
 何故かというと一般社会ではこの爆弾漁業横行の原因を、利益
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