や、大河の決するが如き勢をもって朝鮮に移住する漁民《りょうみん》だけが、前後を通じて五十万という盛況を見つつ今日《こんにち》に及んだ。歴代の統監、総督の中でも山内正俊大将閣下は、特に吾輩の功績を認めて、一躍、総督府の技師に抜擢《ばってき》し、大佐相当官の礼遇を賜う事になった。苟《いやし》くも事、朝鮮の産業に関する限り、米原《まいばら》物産伯爵、浦上水産翁と雖《いえど》も、一応は必ず、吾輩、轟技師に伺いを立てなければ、物を云う事が出来ないという……吾輩の得意想うべしだったね。
 ところでここまではよかった。ここまではトントン拍子に事が運んだが、これから先が大変な事になった。引くに引かれぬ鞘当《さやあ》てから、日本全国を潜行する無量無辺の不正ダイナマイトを正面に廻わして、アアリャジャンジャンと斬結《きりむす》ぶ事になった。しかもソイツが結局、吾輩タッタ一人の死物狂い的白熱戦になって来たんだから遣り切れない。
 或は吾輩一流の野性が祟《たた》ったのかも知れないがね。
 そのソモソモの狃《な》れ初《そ》めというのは、実につまらないキッカケからだった。
 今も云う通り吾輩は、総督府のお役人になっ
前へ 次へ
全113ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング