ぎで釜山に帰るんだ。そのうちに先生を説伏《ときふ》せて組合の巡邏船、鶏林丸に食糧と油を積んで、その夜《よ》の中《うち》にズラカッてしまう。真直《まっすぐ》に露領沿海州へ抜けて俺の知っている海岸で冬籠りの準備をする。春になったら砂金|採《と》りだ。誰も寄り付けない絶壁の滝壺の中に一パイ溜まっているのを、お前と二人で見た事が在るだろう。……あすこへ行くんだ……あの瀑布《たき》の上の方を爆薬《ドン》でブチ壊して閉塞《ふさ》いでしまえばモウこっちのもんだ。儲かるぜそれあ……轟先生は元来、正直過ぎるからイカン。役人の居る処はドウセイ性に合わん事を御存じないんだ。あんな人を一生貧乏さしといては相済まん。……朝鮮はモウ嫌じゃ嫌じゃ。西比利亜《シベリア》が取れたら沿海州へ行くと口癖に云うて御座ったから、コレ位、宜《え》え機会《おり》はない。モウ西比利亜には日本軍がワンワン這入っとるから喜んで御座るにきまっとる……それでも嫌なら今の中《うち》に貴様もデッキに上っとれ。……俺が一人で遣っ付けてくれる。轟先生の演説ぐらいで正気附く野郎等じゃない……」
 という見幕だったのでトテも歯の立てようがなかった。しか
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