し、それでも折角の先生の苦心がこれで打切りになるのか……親父《おやじ》の一代もコレ切りになるのか……といったような事を色々考えているうちに胸が一パイになってしまった。
ところが虫が知らせたのであろう。そう思っているうちにその言葉が遺言になってしまった。自分も一所に海へタタキ込まれてしまったが、間もなく正気に帰ってみると、水船の舷側にヘバリ付いてブカブカ遣っていることがわかった……ちょうど向側《むこうがわ》だったから甲板《デッキ》の上から見えなかったんだね。おまけにどこにも怪我《けが》一つしたような感じがしない。
そこでコンナ処に居ては険呑《けんのん》だと気が付いたから、出来るだけ深く水の底を潜って、慶北丸の左舷の艙口《ハッチ》から機関室に潜り込んだ。そこいらに干して在った菜《な》ッ葉服《ぱふく》を着込んで、原油《オイル》と粉炭を顔に塗付《ぬりつ》けると知らん顔をしてポンプに掛かっていたが、混雑のサナカだったから誰にもわからなかった。スレ違った来島にも気付かれないで、無事に釜山へ帰り着いた……そこで又、吾輩の処へ帰ったら物騒だと考えたから、そのままドン仲間に紛れ込んで、海上を流浪する
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