ヨボ》公か……コンナ処まで浮かれて来るなんて呑気な奴も在るもんだ。アッチへ行け。|何も無い《オブソ》|何も無い《オブソ》。
 というので手を振って見せたが動かない。そのうちに気が付いて見るとそれが擬《まが》いもない友太郎だったのにはギョッとさせられたよ。噂をすれば影どころじゃない。テッキリ幽霊……と思ったらしい。三人が三人とも坐り直したもんだ。
 ……ハハハ……ナアニ。聞いて見たら不思議でも何でもないんだ。
 何よりも先に××沖で例の一件を遣付《やっつ》けた時の話だが……慶北丸に引かれた小船で、沖へ揺られて行く途中で早くも親父《おやじ》の顔を見て取った友太郎がハッとしたものだそうだ。そこでもしやと思って親父の図星《ずぼし》を刺してみると果して「その通りだ。モウ勘弁ならん」と冷笑している。……これはいけない。こうなったら取返しの附かない親父だと思うには思ったが、何ぼ何でも吾輩の一身が案じられたもんだから一生懸命に親父の無鉄砲を諫《いさ》めにかかったが……モウ駄目だった。
「……ナアニ。心配するな。轟先生の泳ぎは神伝流の免許取りだから一所《いっしょ》に沈む気遣いはない。アトで拾い上げて大急
前へ 次へ
全113ページ中107ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング