、ヤット落付いてホッとしたもんだが……」
「……結局……何でしたか……それあ……」
「……ウン。それから釜山の事務所に帰って、銭湯《せんとう》に飛込むと、何か知らピリピリと足に泌《し》みるようだから、おかしいなと思い思い、上框《あがりかまち》の燈火《あかり》の下に来てよく見ると……どうだ。その左の足首の処に女の髪が二三本、喰い込むようにシッカリと巻き付いて、シクリシクリと痛んでいるじゃないか……しかも、そいつを抓《つま》み取ろうとしても、肉に喰い込んでいてナカナカ取れない。……吾輩、思わずゾッとして胸がドキンドキンとしたもんだよ。多分、水面下でお陀仏《だぶつ》になりかけていた芸者の髪の毛だったろうと思うんだが、今思い出しても妙な気持になる。……女という奴は元来、吾輩の苦手なんだがね。ハハハハ……」
 といったような懐旧談で、頻《しき》りに悽愴《すご》がってシンミリしている鼻の先へ、庭先の月見草の中から、白い朝鮮服を着て、長い煙管《きせる》を持った奴がノッソリと現われて来たもんだ。
 三人はその時にハッとさせられたようだった。しかし、そのうちに長い煙管が眼に付くと、
 ……ナアンダ朝鮮《
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