めてもの拾い物だったかも知れないが……ハッハッ……。
そこで吾輩は断然思い切ってこの絶影島《まきのしま》の一角にこの一軒屋を建てて自炊生活を初めた。妻子を持たない吾輩にとっては格別の苦労じゃないからね。ここで本腰を入れて報告を書く決心をしたもんだが、書けば書くほど、朝鮮官吏の植民地根性が癪《しゃく》に障《さわ》って来る。同時にこの素晴らしい爆薬の取次網を蔽《おお》うべく、内地、朝鮮の有力者連中が、如何に非国家的な黒幕を張り廻わしているかが、アリアリと吾輩の眼底に映じて来た。友吉おやじの云い遺《のこ》した言葉が、マザマザと耳に響いて来て、ペンを持つ手がブルブルと震え出すようになった。……そうだよ。或《あるい》は酒精中毒《アルチュウ》から来た一種の神経衰弱かも知れないがね。しまいにはボンヤリしてしまって、ワケのワカラナイ泪《なみだ》ばかりがボロボロ落ちて来るんだ。コンナ事ではいけないと思って、焦《あ》せれば焦せるほど筆がいう事を聞かなくなるんだ。呑兵衛《のんべえ》老医《ドクトル》も心配して、
「そいつは立派な動脈硬化じゃ。萎縮腎《いしゅくじん》も一所に来ているようじゃ。漢法に書痙《しょ
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