人の怨みを如何《いかん》せんだ。……ドウするか見ろ……というので事件の翌《あく》る日から毎日事務所に立て籠もって向う鉢巻でこの報告書を書き初めたもんだが、サテ取りかかってみるとナカナカ容易でない。演説の方なら十時間でも一気|呵成《かせい》だが、文章となると考えばかりが先走って困るんだ。おまけに唯一の参考書類兼|活字引《いきじびき》ともいうべき友吉おやじが居ないんだからね。ヤタラに興奮するばかりで紙数がチットも捗《はか》どらない。
その間に有志連中の方では如才なく事を運んだらしい。吾輩との妥協を絶望と見て取って暗々裡《あんあんり》に事件を揉み消すと同時に、同じような手段でもって総督府の誰かを動かしたものと見える。吾輩の本官を首にした上に、各道で好意的に手続きをしていた組合費の徴収をピッタリと停止してしまった。実に陰険、悪辣《あくらつ》な報復手段だ。山内さんが生きて御座《ござ》ったらコンナ事にはならないんだがね。せめてもの便《たよ》りになる、藁塚産業部長までも中風で、郷里の青森県に寝て御座《ござ》るんだから吾輩、陸に上った河童《かっぱ》も同然だった。もっとも恩給を停止されなかったのが、せ
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