けい》という奴があるがアンタのは酒痙じゃろう。今に杯が持たれぬようになるよ。ハハハハ。とにかく暫く書くのを止めた方が宜《え》え。そうなるとイヨイヨ気が急《せ》くのが病気の特徴じゃが、そこで無理をしよると脳髄《のうずい》の血管がパンクする虞《おそ》れがある。そうなったら万事休すじゃ。拙者もアンマリ飲みに来んようにしよう」
といったアンバイで、気の毒そうに威《おど》かしやがるんだ。
そこで吾輩も殆んど筆を投《とう》ぜざるを得なくなった。刀折れ、矢|竭《つ》きた形だね。
……蒼天蒼天……吾輩の一生もこのまんま泣き寝入りになるのか。回天の事業、独力を奈何《いかん》せん……と人知れず哀号《アイゴー》を唱えているところへ又、天なる哉《かな》、命《めい》なる哉と来た。……彼《か》の林《りん》青年……友吉の忰の友太郎が今年の盂蘭盆《うらぼん》の十二日の晩に、ヒョッコリと帰って来たのには胆《きも》を潰したよ。
ちょうどその十二日の正午過ぎの事だった。友吉の大好物だった虎鰒《とらふぐ》を、絶壁《がけ》の下から投上げてくれた漁師《やつ》があったからね。今の呑兵衛|老医《ドクトル》と、非番だった慶北丸
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