分違わぬ、凄い程美しいお姫様《ひいさま》がたった一人、静かに歩いて来るのでした。美留藻は今更にその美しさに驚いて思わず立ち止まりますと、向うも美留藻の姿を見付けて、驚いたような顔をして歩みを止めました。美留藻はこれは屹度《きっと》夢の中の美留女姫が現われて、妾に鏡の在《あ》り所《か》を教えにお出でになったに違いない。そうして妾は矢っ張り旧来《もと》の通りの美留藻で、お姫様でも何でもなかったのだと思いまして、あまりの恥かしさに顔を手で隠しますと、先方《むこう》でも顔に手を当てました。自分の真似をされて、美留藻はいよいよ恥かしくなって、宝石の上にペタリと座りますと、先方も亦ペタリと座ります。オヤと思いながら立ち上って向うを見ますと、向うも矢張り立ち上ってこの方《ほう》を見ていました。試しに両手を動かして見ますと、向うでも動かします。足を踏みますと先方《むこう》も踏みます。
扨《さて》はと思って近寄って見ますと、これが紛《まぎ》れもない白銀の鏡で、今まで美留女姫と思ったのは自分の姿が向うに映っているのでした。
美留藻は驚いた余りに、我れを忘れて、あっと叫ぼうとしましたが、その拍子《ひょう
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