従って、月の光りを便りに王宮へ帰って行った。
八 象牙《ぞうげ》の机
贋《に》せ藍丸王は狩場から宮中へ帰って、晩の御飯を済ますと直ぐに、家来に云い付けて、自分の室《へや》に新しい椅子を四ツ運ばせて、象牙の机の周囲《まわり》に並べさせた。それからお傍の者を遠ざけて自分独りになると、入り口の扉を固く閉めて、閂《かんぬき》を入れて、真暗になった中で一声高く――
「鸚鵡。鸚鵡。赤鸚鵡」
と叫んだ。
その声の終るか終らぬに、忽ち室《へや》の隅から真赤な光りが輝き出して、赤鸚鵡はさも嬉しそうに羽ばたきをしながら、室《へや》の真中の机の上に来たが、その眼の光りで室《へや》の中を見るとこは如何《いか》に……。今までこの室《へや》には藍丸王唯一人しか居なかった筈なのに、今見ると最前の森の中に居た四人の化け物――爺《じじ》と、女と、赤ん坊《ぼ》とクリクリ坊主とが、四ツの椅子に向い合って、ちゃんと腰を掛けていた。
その中でお爺さんが真先に皺枯《しゃが》れ声で口を利いた――
「どうだ、赤鸚鵡、嬉しいか。嬉しいか。いよいよこの国は俺達《おらたち》のものになった。これから何でも見たい、聞きた
前へ
次へ
全222ページ中71ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング