た》をした車が、行列を立てて歩いて行く。そうして髪毛《かみのけ》や、眼色《めいろ》や、顔色が赤や、白や、鳶色《とびいろ》や、黒等とそれぞれに違った人々が、各自《てんで》に好きな仕立ての着物を着て、華やかに飾り立てた店の間を、押し合いへし合《あい》して行き違う有様は、まるで春秋《はるあき》の花が一時《いちどき》に河を流れて行くようである。けれども藍丸王の行列が見えると、こんなに繁華な往来が皆一時にピタリと静まって、見る間に途《みち》を左右に開いて、馭者《ぎょしゃ》は鞭《むち》を捧げ畜生は前膝を折り、途行く人々は帽子を取って最敬礼をする。その間を王の行列は静々と通り抜けて、間もなく街外れに来ると、そこから馬を早めて野を横切って、東の方に並んでいる山の中に駈け入った。
この日お供をしている四十人の騎馬武者は、皆紅矢の命令《いいつけ》を守って他《た》の鳥|獣《けもの》には眼もくれずに、只赤い羽根を持って人間の声を出す鳥が居たらばと、そればかり心掛けて、眼を見張り、耳を澄まして行った。中にも紅矢は真先に立って、もしや人間のような鳥の鳴き声がするか、赤い羽根の影が見えはせぬかと、皆と一所に油断な
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