七 眼、耳、鼻、口
藍丸王は翌《あく》る朝眼を覚ますと直ぐに身支度を済まして、昨日《きのう》のように紅木大臣と一所にお城の北の先祖の御廟《おたまや》へ参詣《おまいり》をしたが、それから後《のち》は昨日のように種々《いろいろ》な大仕掛な出来事は無かった。お附の者に連れられて自分の室《へや》に帰って、昨日にも倍《ま》して結構な朝御飯を済ました。ところがその御飯が済むと、やがて一人の立派な軍人が這入って来て藍丸王に最敬礼を為《し》ながら――
「紅矢《べにや》様が御出《おい》でになりました」
と云った。そうして王が軽く頷《うなず》くと間もなく軍人と入れ違って、紅い服に白い靴を穿《は》いた、彼《か》の美紅《みべに》姫とよく肖《に》た少年がさも嬉しそうに元気よく走り込んで来た。そうして藍丸王と抱き合って挨拶をしたが、紅矢は抱き合った手を離すと直ぐに口を開いた――
「王様。昨日《きのう》は私、本当に参りたくて参りたくて堪《たま》りませんで御座いましたよ。本当に私は一日《いちじつ》王様にお眼にかかりませぬと、淋しくて淋しくて一年も二年も独りで居るような心地が致しますよ。今日はその代
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