丸王様も今は濃紅姫の美しさをお忘れになったから、あのような菅無《すげな》い事を仰せられたのであろう。けれども又今度御覧になれば、屹度昔のように御気に入るに違いない。そしてもし濃紅姫がお目見得に出ないために、他の賤《いや》しい女がお妃になるような事になると、かえって王様に対して恐れ多い事になる。だから濃紅姫が今度のお目見得に出るという事は、十方八方のために大層都合のよい大切な事で御座いますと、さも苦しそうな呼吸《いき》の下からあらん限りの言葉を尽して勧めました。
 両親も聞いて見れば成る程|道理《もっとも》ですから、一つは濃紅姫の可愛さと親の贔負目《ひいきめ》で、やっとの事それに定《き》めて両親揃って濃紅姫の室《へや》へ相談に出かけました。
 そのあとへ青眼先生が、女中の案内を受けて大急ぎで遣って参りました。先生は今まで宮中より他にはどこにも行った事がなく、この家に来たのはこれが初めてで、宮中に来る紅木大臣と紅矢の他は一度も会った事のない人ばかりでしたから、一々皆に叮嚀に挨拶を致しましたが、只美紅姫だけは自分の室《へや》に隠れていて、姉様《ねえさま》の濃紅姫が呼んでも出て来ませんでした。
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