は御座いませぬ。けれども悪魔の美紅姫はこの果物の直ぐ傍に居るという事で御座います」
「何、私の傍に」
 と紅矢は思わずそこらを見まわしましたが、そこは丁度|只《と》ある森の中の橋の上で、あたりには人一人通らず極く淋しい処でした……と思う間もなくどうした途端《はずみ》か、お婆さんは不意に今まで大切に抱えていた果物の籠を、馬の上から取り落しまして――
「あれっ。大変だア」
 と叫びながら、自分も一所に馬の上から転がり落ちて、周章《あわて》て果物を拾おうとしましたが、生憎《あいにく》果物は橋板の上を八方に転がり出して、大方河の中へ落ちてしまいました。するとお婆さんは俄《にわか》に泣き声を張り上げて――
「あれッ。大切な果物が皆河へ落ちた。王様へ差し上げる占《うらない》の果物は皆流れて行って終う。ああ、勿体ない。勿体ない。あれ、取って下さい。取って下さい。誰も取ってくれなければ妾が行く」
 とそのまま欄干《てすり》に走り寄って、今にも飛び込もうとしました。これを見た紅矢は驚くまい事か、「お婆さん、危い」と叫びながら直ぐに馬から飛び降りて、お婆さんを抱き止めて、代りに自分が素裸体《すはだか》にな
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