。まあ、何という利口な鳥でしょうねえ。最早《もう》妾の名前を覚えたの。大方お父様かお母様の真似でも為《し》ているのでしょう。本当にお前は感心だわねえ」
と云いながら、籠《かご》の傍に近寄った。けれども鸚鵡は籠の真中の撞木に止まりながら、矢張《やっぱ》り姫の名を呼び続けた――
「美留女姫、美留女姫、美留女姫」
これを聞くと姫は益々笑いながら――
「まあ、可笑《おか》しい鸚鵡だ事。わかったよ、わかったよ、妾はここに来ているではないの。そうして妾に何か用でもあるの」
と尋ねた。すると不思議なことには赤鸚鵡が忽《たちま》ち姫の前の金網へ飛び付いて、姫の顔を真赤《まっか》な眼で見つめながら――
「美留女姫、美留女姫、用がある。話がある、面白い話しがある」
と呼んだ。
美留女姫はこれを聞くと、真青になって驚いた。真逆《まさか》こんな鳥が、人間と同じように、しかも自分に話しかけようとは夢にも思わなかったのだから、怪しんだのも無理はない。余りの事に呆《あき》れて口も利けなくなって、茫然《ぼんやり》と鸚鵡を見つめていると、赤鸚鵡は構わずに叫び続けた――
「怪しむな、驚くな、美留女姫、美留女姫。
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