あの水底《みずそこ》の白銀《しろがね》の鏡を御取り寄せ遊ばして、御居間に御据え遊ばしたとの事。まあ、何という恐ろしい事を遊ばすので御座いましょう。
 この間申し上げた、この国の古い掟を最早《もう》お忘れ遊ばしましたか。
『人の声を盗む者。人の姿を盗む者。人の生き血を盗む者。この三ツは悪魔である。見当り次第に打ち壊せ。打ち殺せ』
 只今までこの国に、人の声を盗む鸚鵡という鳥が一匹も居ず、人の姿を盗む鏡というものが一ツも無く、人の生血を盗む蛇というものが一ツも無いのはこの掟があるために人々が……」
「八釜《やかま》しい。黙れ」
 と王は烈しく叱り付けました。
「そのような事は貴様から聞かずとも、疾《とっ》くに俺は知っている。俺は今までのように、貴様に欺されてばかりはおらぬぞ。貴様は悪魔でもないものを悪魔と云って、俺を馬鹿にしようとしたのだ。この鸚鵡の御蔭で、俺は居ながらに世界中の声を聞き取る事が出来、又この鏡の御蔭で、俺は世界中の出来事をいつでも見る事が出来るのだぞ。この二ツのものがある御蔭で、俺は世界一の賢い者になったのだぞ。それに貴様はこの重宝な宝物を無理に俺から取り上げて、俺を王宮の
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