いたか急にバタバタと飛び降り、机の下に隠れてしまいました。

     十二 三ツの掟

 藍丸王はこれを見ると、急に不機嫌な顔になって、椅子から立ち上りました――
「何だ。何だ。誰かお前の嫌いなものが、扉の外に近づいて来るのか。よしよし。お前はそこに隠れておれ。俺が追い払ってやる」
 と云いながら急いで四方の窓を明け放して扉の傍へ来て――
「誰だ。そこに来ているのは」
 と云いながら扉を開きました。
 外には黄色い着物を着た青眼が、謹しんで敬礼をして立っていました。
「何だ。お前か。そして何の用事があってここへ来たのか。又この間の鸚鵡の時のように、鏡を乃公《おれ》から奪いに来たのか。鏡は最早《もはや》疾《とっ》くの昔に受け取りの儀式を済まして、居間の壁に取り付けてあるぞ。それとも他に用事でもあるのか。早く云え」
 と畳みかけて尋ねました。
 青眼は静《しずか》に顔を挙げて王の顔を見ましたが、忽ちハラハラと涙を流して申しました――
「嗚呼《ああ》。王様。御察しの通り、私が参りましたのはその鏡の事に就てで御座います。承《うけたまわ》れば王様は、私がお止め申し上げるのも御聴き入れ遊ばさず、
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