後《のち》の事までもすっかりわかる。妃の素性もわかるに違いない。成程、返す返すもよい工夫だ。では今から直ぐに話してくれ。四人一所に聞いていようから」
「一体これからどんな事が始まるのか」
「嬉しい事か。悲しい事か」
「楽しい事か。恐ろしい事か」
「早くその魔法を使ってくれ」
「待ち遠しくて堪らない」
と四人は口を揃えて頼んだ。
けれども赤鸚鵡は暫くは話しを初めなかった。じっと耳を澄まし眼を光らし、遠くの後《のち》の事を考えている様子であったが、やがて羽根づくろいをして静かに奇妙な声で話を初めた。
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第二篇 水底の鏡
九 湖の秘密
この藍丸国は四つの国にわかれておりまして、東の方を日見足国《ひみたるこく》といい、西の国を夜見足国《よみたるこく》といい、北を加美足国《かみたるこく》といい、南の方を宇美足国《うみたるこく》といって、それぞれその国の名を名前にした王様が治めているので御座いますが、藍丸王はその四人の王の上の王様で、四ツの国を合わせて一つの藍丸国と称えているので御座いました。
又藍丸国の北と西は、涯《はて》しない沙原《さばく》で囲まれていて、南と東側はどこまでも続いた海になっていますが、中にも南の宇美足国には湖や河が沢山あって、商売の盛んな処で御座います。その湖のうちで一番広い、多留美という湖の傍《かたわら》に住んでいる漁師で、名を藻取《もとり》という爺さんがおりました。お神さんと小供二人を早く亡くして、今では末の一人娘の美留藻《みるも》というのが大きくなるのを、何よりの楽しみにして仕事に精を出していましたが、美留藻は実《まこと》に美しい娘で、その上に村一番の水潜りの名人だと近郷近在の評判になっておりました。そうして誰がその婿《むこ》になるだろうと、方々で種々《いろいろ》噂をしていましたが、やがて美留藻が年頃になると、その噂は一ツになって、隣り村の宇潮《うしお》という漁師の二番目の息子で、これは水潜りも上手だが、取りわけて横笛が名人で、お母さんの身体《からだ》の中から鉄の横笛を握って生れて来たという評判の、香潮《かしお》という若者が、一番似合った婿であろうという事に定《き》まりました。
この噂はすぐに本当になりました。両方の間に或る世話好きの男が這入りまして、相談をしますと、両方の両親も、本人同志も喜んで、承知を
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