が乗っかっていた。その赤い鳥は藍丸の王宮から逃げ出して今大勢の兵隊に一日がかり探されている彼《か》の赤鸚鵡と寸分違わなかったが、只その眼玉ばかりは今までと違って、紅玉《ルビー》のように又は火のように、あたりを払って輝やいていた。
それを左の手に据えて、新規の藍丸王はつかつかと白髪小僧に近寄りながら――
「どうだ、藍丸王。見えたか、聞こえたか、解かったか。ハハハハハ。見えまい、聞こえまい、解かるまい。併し無駄だろうが云って聞かせる。云うまでもなく俺は最前の四人の魔者が化けたのだ。石神の怨みの固まりだ。今まで赤鸚鵡を種々《いろいろ》に使って、やっとお前をここまで連れ出して来たのだ。気の毒だがお前の姿は俺が貰った。只|生命《いのち》だけは助けてやるから、その代り賤《いや》しい乞食姿になって、何も見ず、何も聞かず、食べず云わず嗅《か》がずに、世界中をうろ付いておれ。その間《ま》に俺は王に化け込んで、勝手|気儘《きまま》な事を為《す》るのだ。
ああ、東の山に月が出かかったようだ。どれ。そろそろ出かけようか」
と二足三足踏み出したが、又引きかえして来て――
「待て待て。ここでは顔付きがまるで同じだからどっちが本物か解からない。序《ついで》にこうしておいてやる」
と云いながら傍に消え残った真赤な燃えさしを取り上げて、ニコニコ笑っている白髪小僧の顔へいきなりぐっと押し付けて、大きな十文字の焼け痕《あと》を付けた――
「ハハハハ。こうしておけば、よもや本当の藍丸王と気付く者はあるまい。おお。馬よ、来い来い」
と招き寄せると、不思議や立《た》ち竦《すく》んで石のようになっていた筈の馬が、今は易々《やすやす》と動き出して直ぐに王の傍へ来た。王はそれにヒラリと飛び乗って、赤鸚鵡の眼の光りを便りに、森の外へと駈け出した。あとに残った盲目《めくら》の唖の白髪小僧は、最前の焼けどは熱くも何ともなかったと見えて、赤く腫《は》れ上って引《ひっ》つった顔のまま、ニコニコ笑いながら四ツの道具を抱えて、どこを当《あて》ともなく、この森を彷徨《さまよ》い出た。
話し変って、最前四方にわかれて、赤鸚鵡を探しに行った紅矢や兵隊達は、何も見つからぬ内に日が暮れてしまったので、急いで約束の樫の木の森に来て見ると、今度は他の者は皆揃ったが肝要《かんじん》の王様が居ない。これは大変だと皆一度に馬に飛び乗って
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