た向うの有様を見ると、見事な飾りをした広い廊下で、天井《てんじょう》や壁に飾り付けてある宝石だか金銀だかが五色《ごしき》の光りを照り返して、まことに眼も眩《くら》むばかりの美しさである。そのうちに燈火《あかり》はだんだん近附いて、やがて持っている人の姿がはっきりと見えるようになった。
 見ると七人の持《も》ち人《て》の内真中の一人だけは黄色の着物を着たお爺さんで、あとの六人は皆空色の着物を着た十二三の男の児であった。そうしてそのお爺さんは、最前《さっき》美留女姫と白髪小僧とを追っかけた、眼の玉の青いお爺さんに相違《ちがい》なかった。その中《うち》に七人は直ぐに自分の傍まで近付いて来たが、その持っている手燭《てしょく》の光りで四方《あたり》を見ると、ここは又大きい広い、そうして今の廊下よりもずっと見事な室《へや》である。そうして白髪小僧自身の姿をふりかえって見ると、こは如何《いか》に。最前《さっき》までは粗末な着物を着た乞食姿で、土の上に倒れていた筈なのに、今は白い軽い絹の寝巻を着て、柔らかい厚い布団《ふとん》の中に埋もっている。その上に自分の顔にふりかかる髪毛《かみのけ》を見るとどうであろう! 今まで滝の水のように白かった筈なのが、今は濃い緑色の光沢《つや》のある房々とした髪毛《かみのけ》になって、振り動かす度《たんび》に云うに云われぬ美しい芳香《かおり》が湧き出すのであった。重ね重ねの奇妙不思議に当り前の者ならば、屹度《きっと》気絶でもするか、それとも夢を見ているのだと思って身体《からだ》でも抓《つね》って見るところだが、併《しか》し白髪小僧は平気であった。昨夜《ゆうべ》も一昨夜《おととい》もそのずっと前からここに居て、たった今眼が覚めたような顔をして、先に立ったお爺さんの顔を横になったまま見ていた。
 お爺さんは六人の小供を従えて、寝台《ねだい》の前に来て叮嚀にお辞儀をした。そうして畏《おそ》る畏る口を開いた――
「藍丸王様。青眼爺《あおめじい》で御座います。お召しに依って参りました。何の御用で入らせられまするか。何卒《どうぞ》何なりと御仰せ付けを願います」
 白髪小僧はこう尋ねられても何《なんに》も返事をせずに、只ぼんやりと青眼爺さんの顔を見ていた。
 するとお爺さんは何やら思い当る事があると見えて、傍の小供に眼くばせをしたが、やがてその中《うち》の一|人《に
前へ 次へ
全111ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング