は不意に高らかに笑い出しました。そうして意地の悪い眼付で青眼の顔を見つめながら尋ねました――
「その掟は誰が作ったのだ」
「ハイ。それは私の先祖の矢張《やっぱ》り青眼と申す者が、申し残しておるので御座います」
「ウム、そうか。してその先祖はなぜこの三ツのものを悪魔だと定《き》めたのか。この三ツのものを悪魔と定《き》めるには何か深い仔細《わけ》があるのか。仔細《わけ》が無くて、只無暗にこのような重宝なものを悪魔だと定《さだ》めるわけはあるまい。その仔細《わけ》を云え」
 この藍丸王の言葉を聞くと青眼はどうした訳か急に真青になって、唇までも見る見るうちに血の色が失せてしまいました。そうしてそれと一緒に手足をぶるぶると震わせながら、返事も何も出来なくなって、只その青い眼を一層まん丸く見張って、王の顔を見つめておりました。この様子を見ると王は益々|勢《いきおい》込んで青眼の前に一歩《ひとあし》進み寄りながら、一層厳格な顔をして睨《にら》み付けて申しました――
「これ、青眼。貴様はなぜ返事を仕《し》ないのだ。なぜその証拠が云われぬのだ。さ、その証拠を云え。その仔細《わけ》を云え。なぜその三ツの者が悪魔なのだ。なぜこの鏡と鸚鵡が悪魔の片われなのだ。貴様は今まで何一ツとして俺に隠した事はないではないか。云え。云え。その三ツの掟の出来た訳を云え」
 と王は如何にも言葉鋭く詰め寄りました。けれども青眼先生は王の勢《いきおい》が烈しくなればなる程縮み上って、ふるえ方が烈しくなって、今は立っている事が出来ず、床の上にペタリと座り込んでしまいました。王はじっとその有様を見ておりましたが、なおも厳《おご》そかな口調で責めました――
「青眼。これ、青眼。貴様はなぜそのように恐れるのだ。なぜそのように顫《ふる》えるのだ。なぜその仔細《わけ》を俺に隠すのだ。一体貴様の為《す》る事は俺にはちっとも訳が解からぬぞ。この間のように見もせぬ夢を見たろう等と尋ねたり、又はこのような重宝なものを俺から奪い取って、罪も無い鸚鵡を殺そうとしたり、又は大勢の者が生命《いのち》を棄てて拾い上げてくれたこの貴い鏡を打ち壊そうとする。俺にとってはこれ位有り難い貴い重宝な宝物《ほうもつ》は無いのだぞ。それをなぜ貴様はそのように悪《にく》むのだ。そうしてその仔細を云えと云えばそのように青くなって顫《ふる》え上ってしまう。一体
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