い……マン丸く光る黄金色の鋲《びょう》を縦横に打ち並べた……ただその扉が普通と違うところは、その把手《ハンドル》が少し低目に取付けてある事と、鍵穴らしいものがどこにも見当らない事であった。
……ハテナ……内側から堅固《じょうぶ》な閂《かんぬき》が突支《つっか》ってあるのかな……。
そう気が付くと同時に虎蔵は、全身がシインとなるほど失望した。この扉《とびら》を破るのは容易でない……と考えたからであった。そうしてここまで、無意味に釣り寄せられて来た自分の冒険慾を、心の片隅で後悔し初めた。
……この扉《と》に触ると、直ぐに電気仕掛か何かで、ほかへ知らせるようになっているに違いない……。
と思い思い虎蔵は、仄かな赤い光りに照らし出された花壇の片隅を、暫くの間、見下していた……が……それでも僅かに残った糸のような未練と、万一の場合の逃走力を空頼みにした彼は、彼の生涯の運命を賭ける気持で、扉の把手《ノッブ》を確《しっか》りと掴んだ。ソーッと右へ捻《ね》じってみた……。
……アッ……と声を挙げるところであった。電気に打たれたように階段を二三段飛び降りた。
扉は何の締りもしてなかった。僅か
前へ
次へ
全29ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング