……あくる朝……。
 晴れ渡った晩秋の旭光《きょっこう》がウラウラと山懐《やまぶところ》の大邸宅を照し出すと、黄色い支柱を並べた外廊下に、白い人影が二つほど歩みあらわれた。
 それは白絹のパジャマを着流した、若い、洋髪の日本婦人と、やはり純白のタオル寝巻を纏《まと》うた四ツか五ツ位の、お合羽《かっぱ》さんの女の児《こ》が並んで、むつまじそうに手を引き合った姿であった。
 若い洋髪の女性は、片手で寝乱れた髪を撫で上げながらも、こうした大邸宅にふさわしい気品のうちにユックリユックリと白|羅紗《らしゃ》のスリッパを運んで来たが、やがて棕櫚《しゅろ》のマットの中央まで来ると、すこし寒くなったらしく、襟元《えりもと》を引き合わせて立ち止まった。
 すると、その時に、お合羽さんの女の児が、つながり合った手を無邪気に引離しながらチョコチョコ走りに廊下を伝わって、真綿《まわた》の白靴をひるがえしひるがえし石の段々を一つ一つに登って行った。そうしてサモサモ嬉しそうに扉《ドア》の把手《ノッブ》を押しながら、内側へ消え込んで行ったが、やがて間もなく、眼をマン丸にして重たい扉《と》を引き開くと、一散に階段を
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