馳け降りて来た。
若い女性は、それを見迎えながら微笑した。
「……まあ……あぶない……ゆっくりオンリしていらっしゃい」
しかし女の児は聴かなかった。
可愛いお合羽さんを左右に振りながら、若い女性のパジャマの裾《すそ》に縋《すが》り付いた。
「……いいえ……お母チャマ大変よ……アノネ……アノネ……アタチ……アノお人形のお姫《ひい》チャマのおめざ[#「おめざ」に傍点]を、いただきに行ったのよ……ソウチタラネ……」
と云いさして女の児は息を切らした。
「ホホホ……チュウチュが引いていたのですか」
女の児は一層眼を丸くして頭を振った。
「……イイエ。お母チャマ……ソウチタラネ……お部屋の中が泥ダラケなのよ……」
「……エ……」
若い女性は顔の色をなくした。女の児の顔をシゲシゲと見下した。
「……ソウチタラネ……アノお人形のお姫《ひい》チャマのお枕元に、大きい、白《ちろ》い菊の花が置いてあったのよ」
「……まあ……」
といううちに若い女性は唇の色までなくしてしまった。その唇の近くで白い指先をわななかしながらすぐ傍の芝生の上に残っている輪形の鉢の痕跡《あと》を見まわしていたが、やがて
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