の華麗《はなやか》な露西亜《ロシア》絨氈《じゅうたん》の上に腹匍《はらば》いになって、ソロソロとその寝台の脚下《あしもと》に忍び寄って行った。何故《なぜ》ともわからない焦燥を感じながら……。
……それはこの部屋の女主人公《ヒロイン》と思われる緞子《どんす》の寝台の主《ぬし》が、果して自分の推量通りに生きた女の児に相違ないか……それとも、やはり、ほかの人形と同様の飾り物に過ぎないかどうかを、是非とも一度たしかめてみたい……というような彼一流の無智な、盲目的な好奇心に、彼自身が囚《とら》われていたせいかも知れない。又は現在、極度に鋭敏になっている彼の嗅覚《きゅうかく》が、その寝台の方向からほのめいて来るチョコレートのような、牛乳のような、甘い甘い芳香《ほうこう》に誘われたせいであったかも知れないが……。
彼は丸|卓子《テーブル》の蔭を、寝台の一|間《けん》ばかり手前まで匍って来ると、ソ――ッと顔を上げてみた。思ったよりも薄暗い、寝台の中に瞳を凝らした。
彼は今更のように固唾《かたず》を嚥《の》んだ。
それは夥しい、美しい黄金色《こがねいろ》の渦巻毛《カール》を、大きな白麻《しろあさ
前へ
次へ
全29ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング