に生きたお伽話《とぎばなし》のようにホノボノと、神秘めかしく照し出しているのであった。
虎蔵は、その光りを浴びたまま棒立ちになってしまった。鼻息さえもし得ないまま、そうした不可思議な光景を見まわしていた。
それは彼が夢にも予期していなかった光景であった。……否《いや》……彼が生れて初めて見る不可解な部屋であった。彼の頭脳《あたま》では到底、理解出来そうにない人形ばかりの小宇宙……この上もなく美しい桃色の微笑の世界……その神秘と、平和にみちみちた永遠の空虚の中に、偶然に……真に偶然に迷い込んでいる彼自身の野獣ソックリの姿……。
彼は気もちが変テコになって来た。頭がガランドウになって、今にも眼がまわりそうに胸が悪くなって来た。
彼はヨロヨロと背後《うしろ》によろめいた……が……又も、ひとりでに立止った。そうして彼自身の浅猿《あさま》しい姿を今更のように見まわしながら、何故《なにゆえ》ともわからない、長い長いふるえた溜息をしかけた。同時に、全身にビッショリと生汗《なまあせ》を掻いているのに気が付いたが、そのうちに又、フト気が付いて、見るともなく丸|卓子《テーブル》の向う側を見るとハッ
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