わ》で巻いたマキリの※[#「木+霸」、第3水準1−86−28]《つか》をシッカリと握り直した。谷川の石で荒磨《あらとぎ》を掛けた反《そり》の強い白刃《しらは》を、自分の背中に押し廻しながら、左手で静かに扉を押した。

 それは天井の高い、五|間《けん》四方ぐらいの部屋であった。幽雅な近代風のゴチック様式で、ゴブラン織の深紅《しんく》の窓掛を絞った高い窓が、四方の壁にシンカンと並んでいた。
 その窓と窓の間の壁面《かべ》に、天井近くまで畳み上げられている夥《おびただ》しい棚という棚には、一面に、子供の人形が重なり合っているようである。和洋、男女、大小を問わず、裸体、半裸体、軽装、盛装の種類をつくして、世界中のあらゆる風俗を現わしているらしい抱き人形の一つ一つが皆、その大きく開いた眼で、あらぬ空間を眺めながら、この上もなく可愛らしい微笑を含んでいるようである。永遠に変らぬ空虚のイジラシサを競い合っているようである。
 虎蔵は眼をパチパチさせた。瞼《まぶた》をゴシゴシとこすって瞳を定めた。
 部屋の中央には土耳古《トルコ》更紗《さらさ》を蔽《おお》うた、巨大な丸|卓子《テーブル》が置いてある
前へ 次へ
全29ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング