ドンドン流れておりますが、その向うが三間幅の県道なんで橋をお架《か》けになればお宅のお自動車《くるま》が楽に這入ります。結構な水の出る古井戸や、深い杉木立や、凝ったお庭|造《づくり》の遺跡《あと》が、山から参いります石筧《いしがけひ》の水と一所に附いておりますから御別荘に遊ばすなら手入らずなんで……」
「高価《たか》いだろう」
「それが滅法お安いんで……。まだそこいらに御別荘らしいものは一軒も御座いませんが、その界隈の地所でげすと、坪、五円でもいい顔を致しませんのに、その五六百坪ばかりは一円でも御《おん》の字と申しますんで……ヘエ。話ようでは五十銭ぐらいに負けはせぬかと……」
「プッ……馬鹿にしちゃいけない。そんな篦棒《べらぼう》な話が……」
「イエイエ。それが旦那。シラ真剣なんで……ヘエ。それがその何で御座います。今から三百年ばかり前に焼けた切支丹寺と申しますものの遺跡《あと》なんだそうで……ヘエ」
「フウム。切支丹寺……切支丹寺ならドウしてソンナに安いんだい」
「それがそのお刀の彫物の曰く因縁なんで……ヘエ。白くれない[#「くれない」に傍点]って書いて御座んしょう。その花を念のため
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