。這《こ》は決して仲人口《なかうどぐち》に非ず。申さば御身のお手柄とも見らるべし。左様なる事、若き人の口出しせぬものぞかし。一切をわれ等に任せて安堵されよと言葉をつくしたる説明《ことわけ》なり。われも強ひて抗《あらが》ひ得ずして、成り行く儘に打ち任せつゝ年を越えぬ。
 かくて兎も角も其夜となり、式ども滞《とゞこほり》なく相済み、さて嫁女と共に閨《ねや》に入るに、彼《か》の嫁女奈美殿、屏風の中にひれ伏してシミ/″\と泣き給ふ体《てい》なり。われ胸を轟かしつゝ、今宵の婿がね、此の片面鬼三郎なりし事、兼ねてより御承知なりしやと尋ねしに、奈美殿、涙ながらに頭を打振り給ひて、否とよ。何事も妾《わらは》は承り侍らず。何事も母上様がと云ひさして又も、よゝとばかり泣き沈まるゝ体なり。因《ちなみ》に奈美殿の母親は継母《まゝはゝ》なり。しかもお生家《さと》が並々ならぬ大身なる処より、嬶《かゝあ》天下の我儘一杯にて、継子|苛《いぢ》めの噂もつぱら[#「もつぱら」は底本では「もっぱら」]なる家なり。されば最初よりかゝる事もやあらむと疑ひ居りし我は、恥かしさ、口措《くちを》しさ総身にみち/\て暫時《しばし》、途
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