た地盤の事や何かで弟子仲間に紛擾《ふんじょう》が起れば、無論家元が裁判せねばならぬ。
 又、家元は各地方に散在する教授とか師範とかいうものの芸道を取り締り、且つ指導せねばならぬので、これを怠るとその流儀の衰亡を招くわけになる。同時に、その師範や教授、又は内弟子が教えている素人弟子の免状を発行してその料金を取る。教えている師範や教授の免状も同様である。
 又家元は自流の舞台で毎月、又は年に何回の能を催し入場料を取る。又、自流の名を冠した会を起し、会費を取り、いろいろの催しや、刊行物なぞを出しているのもある。
 又、家元は自流に属する謡本や、その他、能楽関係の書類の刊行権、又は版権を持っていて、重要な収入として取扱っている。
 又、家元は自分自身にも身分ある人々の処や何かの処へ稽古をつけに行く。又、中央都市や地方の定期の会、その他の催しに於ける演能の諾否を決定し、曲目を撰み、出演者の役割りをきめる。
 又、家元は、自流の能楽の演出、維持、興隆その他に就いて、他流の主演者、助演者、狂言方、囃方等との極めて面倒な交渉の最後の決定権を握るほかに、流儀内の素人、玄人を通じて来る芸道上の質問その他に
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