く教養したいのであるが、これは色々な関係から中々実現し難い事情に在る。だから現在では何流の家元でも自流の内弟子だけしか養成していない。
 その内弟子は日本国中の同流の愛好者から紹介されたり、又は自ら望んで来たり、又は内弟子の有力者や、家元自身が見込んで連れて来た者なぞ色々である。皆家元の家来もしくは書生同様に育てられるので、稚《おさな》いうちは学校に遣ってもらう、傍《かたわ》ら兄弟子から芸を仕込まれたり、自分で研究したりする。つまり一種の天才教育である。
 やがて一通り芸が出来るようになると、教授の資格を貰い、舞台に出演を許される。同時に家元の所に来る素人のお弟子にお稽古をつける事になるが、その収入は無論家元のものになる。その他に自分自身で素人のお弟子の家に出稽古に行くが、これは自分の収入となる。そうして軈《やが》て相当の年輩となり、独立の見込みが立つと、家元の寄食生活を出て、家を持つ。
 家元は、これ等の内弟子を教養すると同時に、各地方地方でその流派の盛んな処へ自分の弟子を稽古に遣る。その振り割りは家元の責任であり且つ権利であるが、なるべく不平の起らぬようにしてやらねばならぬ。そうし
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