こんな意味になる。
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舞台という四角い、限られた枠の中に嵌《は》め込まれるべき所作的表現である以上、その所作、扮装共に現実と同じものでは調和しないのが当然である。皿の絵はあくまで皿の絵式の非現実なものでなければならぬ。丸天井の絵はどこまでも丸天井式の夢幻的な構図着想でなければならぬ。その他、壁布の絵、衣裳の模様、人体の黥《いれずみ》、その他何でも、芸術作品というものは、その盛り込まれる相手の形状、用途、環境、対象等の各条件によって、それらしいノンセンス味を加味して行かれねばならぬ。そこに現実としての虚偽があると同時に芸術としての真実が存在する。この意味で現実の断片を、そのまま舞台にはめ込むのは芸術上の大錯誤である。
舞台という特別な世界に嵌め込まれて、鑑賞さるべき所作芸術は、舞台という四角い箱に百パーセントまで調和する扮装と所作でなければならぬ。このために芝居に於て、俳優は、顔の化粧を強調し、動作を極度に突込み、表情を思い切り誇張する。舞台を区切る強い直線の力、フットライトの威力、音楽の波動、又は筋や言葉の緊張度等に圧倒されまい。これを支配して、これに調和して
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