し外に適当な題もないようだからこの題下に話をすすめる。
 近来外国の芸術家、もしくは芸術愛好者たちが日本の「能」に着眼して、色々な研究をしていると聞いた。主として文学青年の噂を聞き噛《かじ》ったのであるが、主として英米独仏人だそうである。中にも米国人は、例の珍らしいもの好きから「能」に接近する傾向があるが、同じアングロ・サクソン人種でも英国人のはそんな単純な意味の研究ではないらしい。何とかいう詩人(イエーツと記憶する)は真正面から「能」を研究して批判しているし、ゴールドン・クレイグという劇通は裡面から英国の劇壇の新傾向を解剖して「劇の窮極の形の一つに仮面舞踊劇が存在する」というところから、日本の「能」の芸術的存在価値を裏書きしていると聞いた。又今から百年ばかり前に死んだ仮面劇の作者(名前は忘却)の墓石に刻み付けられた楽譜ようのものの正体が、どう研究しても分らなかったのが、この頃日本の能楽研究が盛んになるに連れて、その楽譜ようのものが打楽器の音譜である事が判明した……というような話も聞いている。その他にも能楽に就て論議された言葉が色々と発表されているので、そんな人々の意見を綜合すると概要
前へ 次へ
全77ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング