になって来るであろう。それよりも軍人なら軍人、狂女なら狂女という風に一定した……仮面に一番よくうつると同時に最も舞台効果ある服装の洗練純美化されたものを着せる。あれは軍人、あれは狂女と一眼でわかるようにする。すなわち観客に余計な頭を使わせないで、ただ仮面と、キモノと、舞台との非現実的に美しい調和の裡に、その主演者の表現能力のみを味わせた方が、はるかに舞曲らしいであろう。
造り物と小道具
これは能の舞台面に用いる家とか舟とか、樹木とか、又は演出を補助する糸車、鏡、桶、釣竿、なぞいうものであるが、これも初めはかなり写実的なもので種類も沢山あったのを、次第に単純化されたり、廃棄されたりして来た形跡がある。
たとえば船は一々布で張って、船の形にしていたのが、今日では只、四角い枠の前後に、半楕円形に曲げた竹を取りつけて、それから白い布で巻いただけである。丁度小児がチョークで描いた西洋浴槽《バス》みたようなもので、船の位置だけを見せるようなものである。それを船頭が一人で提げて来ても誰も笑わない。否《いな》。もう一歩進んで、その船さえも無しに海上の表現をした方が、仮面舞踊の表現とし
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