究が遂げられたものらしい。奈良や京都に在る古代の仮面を見てもわかる事で、頭からスッポリ冠ったり、顔半分を突込んだり、鼻や、眼玉や、口が動くようにしたり、そのほか様々の舞台効果を目標とした極端な表情の仮面が行われた。そのあげくヤット現在の中庸を取った無表情式のものが生まれた訳で、能が生まれたのも多分それと一緒ではなかったかと考えられる。
能の仮面は、そうした高潮した芸術的要素を含んだものだけに、昔の芸術家が精英を尽して、続々と製作したものらしい。その種類も初めは随分多かったらしいが、これも、能の曲目が減るのと同様の意味……すなわち能式の進化の途中で振い落されて、現在では全く用いられないものや、殆んど用いられぬものが、そのままに夥しく残っている。
その代り、或る種類のものは盛んに使用される。たとえば処女、年増、武者、若い男、爺、天狗なぞで、これはそんなものを仕組んだ曲が割合に多く残っているせいでもある。
装 束
現在の能の扮装を見た人は、到る処に思い切った時代錯誤や、身分錯誤? を発見して驚き呆《あき》れらるるであろう。
芝居ならば裸一貫であるべき漁師が、大臣と同じ
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