価値の低い……演《や》る方も、見る方も張り合いがない……という種類のものは、だんだん舞い捨てられて、遂に現在の二百番内外にまで減少してしまった。その二百番の中でも近来久しく上演されないもので、遠からず廃曲になりそうなのが何十という程ある。一方に、アトに残った芸術価値の高い、僅少な能の曲目は繰り返し繰り返し演出されて、益々洗練を重ねられる。演出価値と観賞価値とを同時に高められて行く。ほかの芸術が新作新作といって無限に殖《ふ》えて行くのとは全然正反対の進化向上の仕方を「能」はして行くので、このような芸術は世界にあまり類例があるまい。事によると、世界唯一のものかも知れないと思われる。
なお、こうした珍らしい「能」の進化については、もっとよく考えてから今一度話してみたい。能の根本生命……即ち能のヨサ[#「ヨサ」に傍点]はそこから生れて来るのだから……。
囃 子
能の初期時代は、能をやる人間が、現在の素人のように、めいめいに入れ代り立ち代り、舞ったり、謡ったり、囃したりしたものではあるまいかと思う。
ところがその後、各人の天分、好き嫌い等の色々な事情で次第次第に分業になって
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