に押し込んだようであった。そうして自分で葬儀屋を呼んで来たり、アルコールと綿を買って来て親父の身体《からだ》を綺麗に拭き上げたりして、野辺送りを簡単に済ますと、親類や近所の人達に挨拶をして私を自分の店に引き取った。叔父はその挨拶の中《うち》で、
「死んだ兄貴に対する、せめてもの恩報じです……」
というような事を何度も何度も繰り返していたが、母親の事は一言も云わなかったようである。もっとも私の居る前で二三人、そんな事を詰問した人もあったが、叔父は馬鹿馬鹿しそうに高笑いしながら、
「そんな事は私が兄貴に追い出された後《あと》の出来事で、どんな事情があったのか知りもしませんし、何の関係もない事です。とにかくこのような場合ですからそのような御質問は後にして下さい。この児《こ》の教育のためにもなりませんから……」
とキッパリ云い切ったことを記憶《おぼ》えている。あとで考えると叔父は私の母を連れ出して散々オモチャにした揚句《あげく》に、どこかへ売り飛ばすか、又は、人知れず殺すかどうかしたらしい……と思える節《ふし》がないでもないが、しかしその時の私は顔も知らない母親の事なぞはテンデ問題にしてい
前へ
次へ
全70ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング