寝ていた私を大きな声で「愛太郎愛太郎」と呼び起しながら、壊れかかった表の扉《と》をたたいたのであった。
叔父はその時が四十二三位であったろうか。眼の小さい、赤ら顔のデップリとした小男で、額の上に禿《は》げ残った毛を真中からテイネイに二つに分けて、詰襟《つめえり》の白い洋服を着ていたが、トテモ人のいい親切らしい風付《ふうつ》きで、悪魔らしいところはミジンも見えなかったのでガッカリしてしまった。……あのまん丸く光る頭を鉄鎚で殴ってもいいのか知らん……と思うと可笑《おか》しくなった位であった。
「オオオオ。愛太郎か。大きくなったナ。十三だというんか。ウンウン。親類の人はまだ誰も来ないかナ。ウンそうか。俺はお前の父さんに誤解されたっ切りで、死に別れたのが残念で残念で……」
と云い云い私の頭を撫でて、白い半布《ハンケチ》で涙か汗かを拭いているらしかったが、親父が遺書《かきおき》と一緒に置いていた叔父宛の密封書を見せると、中味を無造作に引き出して、証文みたようなものを一枚一枚|叮嚀《ていねい》に検《あらた》めて行くうちに、何ともいえず憎々しい冷笑を浮かめながら、みんな一緒にまとめて内ポケット
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