の曲りくねった字体で丸ッキリ読めなかった。又、親父の死に顔も、夜具の下に寝かしてあるのを覗いて見るには見たが、別に悲しくも何ともなかったので困ってしまった。近所の人達や、警官や、医者みたいな連中が、みんな眼をしばたたいたり泣いたりしているらしいのに、私一人だけはツクネンと坐ったまま、呑気《のんき》そうに口をポカンと開《あ》いた親父の口もとを眺めて「咳が出なくなったから楽だろう」なぞと思ったりしているのが何となくバツが悪かった。するとそのうちにドカーンと大砲のような音がして、何かしら眼が眩《くら》むほど真白く光ったのでビックリした。あとから聞いてみると、それは新聞社から来た写真屋がマグネシュームというものを焚《た》いたので、あくる日になるとその写真が私の氏素性《うじすじょう》と一所に大きく新聞に出た。……大金持ちの遺児《わすれがたみ》で、この上もない親孝行者で……とか何とかいうので、学校の成績のよかった事や、毎日活動のビラや古新聞の記事を親父に読んで聞かせた事まで無茶苦茶に賞め立てて書いてあった。
その新聞を持って、まだ薄暗いうちに飛び込んで来たのが悪魔の叔父で、親父の仏様の横に並んで
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