サントに溶《と》いといたのを……みんな飲んでしまったの」
「馬鹿……」
「……妾……今から帰って、お医者様にスッカリ白状するわ。みんな妾が一人でした事だって……ですから貴方《あなた》は……あなたは早く逃げて頂戴……同罪になるといけないから……店の金庫の合牒《あいちょう》はイナコよ……サヨウ……ナラ」
 彼女が受話機を取り落す音がした。そのあとからゴトーンと人間の身体が倒おれるような音が響いた。
「……馬鹿め……勝手にしろ……」
 と云い放って私は受話機をかけた。
「……チイ……芝居だ。畜生め……このまま俺が逃げ出したら、立派な犯人が出来上るって寸法だろう……ハハンだ……電話の神様を知らねえか……」
 こう思いながら二階に上って、昨夜の吸いさしの葉巻に火を点《つ》けたまま、暖かい蒲団にもぐり込むと、エタイの知れない薄笑いが自然《おのず》と唇にニジミ出した。
 ウッカリするとそのうちに叔父が店にやって来るかも知れないと思い思い、グッスリと睡ってしまった。

       ×          ×          ×

 警察でも検事局でも私は一切知らない知らないで頑張り通した。血を吐いた
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