「……エッ……どうして?……」
「浜村銀行の頭取と支配人が昨夜大阪で拘引されたんだ。福岡の支店も支払停止にきまっている。叔父は破産しているんだよ。残っているのは待合の借りばかりだ」
「……………」
「みんなお前さんの自業自得さ。お気の毒様みたいなもんさ。……どこへでも行くがいい……」
「……ホント……」
「本当さ……今、大阪から電話が掛かって来たから知らせようと思ったところへ、お前さんが電話をかけたんだ。だから僕はすぐに電話口へ出たろう……ちょうどよかったんだ」
「……………」
「……ジャ左様《さよう》なら……御機嫌よう……」
「待って頂戴……」
「……何だ……」
「……チョッと待ってネ。後生だから……あたし……」
「どうしたんだい」
「……………」
 彼女が受話機を箱の上に置く音がした。そのあとから自動車らしい警笛がホンノリと通過すると間もなく、彼女が咳払いする音が聞えて来た。
「……モシモシ……モシモシ……時間ですよ……」
「……つないで……ちょうだい」
 お金を入れる音がコチーンとした。
「オイオイ……どうしたんだ?」
「……あたし……今ね……叔父さんに上げたお薬の残りをアブ
前へ 次へ
全70ページ中67ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夢野 久作 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング