が、多分親類たちが勝手に処分したものらしく、正体不明の犯人も、いまだに正体不明のままになっている……。
[#ここで字下げ終わり]
というようなかなりモノスゴイ筋であった。叔父も一生懸命に力瘤《ちからこぶ》を入れて喋舌《しゃべ》っているようであったが、しかし、私はちっとも傾聴していなかった。それはシナリオや小説を飽きる程読んでいる私の耳には、頗《すこぶ》るまずい、取って付けたような話としか響かなかったので、強いて想像を逞しくすれば……その美しい第二夫人というのは、私の実の母親の事ではないか。そうして正体不明の情夫の正体は取りも直さず叔父自身ではないか。叔父はそうした旧悪に対する一種の自白心理を利用して私たちを誤魔化《ごまか》そうと試みているので、友丸伊奈子と私とはその実、タネ違いの兄妹《きょうだい》とも、従兄妹《いとこ》同志ともつかぬ異様な間柄になっているのではないか……と疑えば疑い得る筋がないでもない位の事であった。
しかしそのうちにフト気が付いて、叔父の斜うしろに坐っている伊奈子の様子を見ると、こうした私の忌《い》まわしい疑いも無用である事がわかった。彼女は如何にもつつましやかな
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