ぐらいのろうたけた[#「ろうたけた」に傍点]令嬢としか見えなかった。
 私は新聞を手に持って、椅子に腰をかけたまま、唖然としてその姿を見上げ見下した。敏感な私の神経はこの令嬢が昨日《きのう》、電話で私に笑いかけた声の主である事を、とっくの昔に直覚していたのであったが、しかも、そうした私の直覚と、眼の前にしおらしく[#「しおらしく」に傍点]伏し眼になって羞恥《はにか》んでいる美少女の姿とは、どう考えても一緒にならないのであった。もしかしたら私の直覚が、今度に限って間違っているのではなかろうか……なぞと一人で面喰っているうちに叔父は帽子を脱いで汗を拭き拭き、反《そ》り身《み》になって二人を紹介した。
「これは俺の拾い物だよ。お前の従妹《いとこ》で俺の姪《めい》なんだ。俺たちには、もう一人トヨ子という腹違いの妹があったんだが、俺達の両親も、お前の死んだ親父《おやじ》もそれを隠していたらしいんだ。そのトヨ子……つまりお前の叔母さんだね……それが生み残したのがこの友丸伊奈子《ともまるいなこ》という娘で、早くから母に別れていろいろと苦労をしたあげく、長崎の毛唐《けとう》の病院の看護婦をしていたんだ
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