たパナマ帽の叔父が、一人の令嬢の手を引いてニコニコしながら這入《はい》って来た。
それは二階の美人画とは全然正反対の風付《ふうつ》きをした少女であったが、それでいてF市界隈は愚か、東京あたりにでも滅多に居ないシャンであろうことが、世間狭い私にも容易にうなずかれた。小男の叔父よりもすこし背が低くて、二重《ふたえ》まぶたの大きな眼が純然たる茶色で、眉が非常に細長くて、まん丸い顔の下に今一つ丸まっちい腮《あご》が重なっていた。縮らした前髪を眉の上で剪《き》り揃えたあとを左右に真二《まっぷた》つに分けて、白い襟首の上にグルグル捲きを作って、大きな、色のいい翡翠《ひすい》のピンで止めたアンバイは支那婦人ソックリの感じであった。小ぢんまりした身体《からだ》には贅沢なものらしい透かし入りの白い襦袢《じゅばん》と、ヴェールのように薄い、黒地の刺繍入りの着物を着込んで、その上から上品な銀色の帯と、血のように真赤な帯締めをキリキリと締めていたが、それが小さい白足袋《しろたび》に大きなスリッパを突っかけながら、叔父の蔭に寄り添ってオズオズと私の前に進んで来た時は、どう見ても大富豪の一人娘か何かで、十六か七
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