時にいくら儲《もう》けて……なぞと真面目腐って講釈をしていた。しかもその暦をよく見ると、いい運勢とわるい運勢とが同じ日に幾つも重なり合っていて、相場が上っても下っても理窟がつくようになっているのであったが、それを真剣になって聞いている素人のお客を見ると、トテモ滑稽で気の毒でしようがなかった。同時に叔父の口先のうまいのにいつも感心させられた。
こうして十六の年に簿記の夜学校を出ると、私は店の電話機の横に机を一個《ひとつ》貰って、各地から来る場況《ばきょう》や出米《でまい》をきく役目を云いつかった。同時に今まで毎晩私と一緒に寝ていた帳簿方が結婚をして家を持ったので、私が常設の宿直になった。午後四時から五時の間に叔父や店の者が相前後して店を引けて行くと、私は表を閉めて閂《かんぬき》を入れて後を掃除した。それから翌朝の六時か七時に起きて、近所の出前屋が配達する弁当を喰って、表に水を打って掃除を済まして、詰襟の洋服に着かえるまでのあいだ、私は小遣銭《こづかいせん》の許す範囲で、古雑誌を買ったり、貸本を取り寄せたりして、いろんな空想を湧かしつつ読み耽った。その中《うち》でも特に私の興味を惹いたの
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