さで充たされていた。
 私はそこで給仕同様にコキ使われながら夜学校に通わされる一方に、毎日毎日相場の事ばかり見せられたり聞かされたりした。そのうちにいつからともなく相場の種類や、上り下りの理窟や、馳け引きのうらおもて[#「うらおもて」に傍点]などが解って来るに連れて、世の中に相場ぐらい詰らない面白くないものはない、とシミジミに思うようになった。けれども亦《また》、そんなものに引きずられて、血眼《ちまなこ》になっている人間を見るのは非常に面白かった。前にも書いた通り叔父は大変な嘘吐きで、よくお客に中華民国の暦と米相場の高低表を並べて見せて、この日は仏滅[#「仏滅」に傍点]だからこの株が下った。この時は日柄が三リンボーだったけれども虎の日[#「虎の日」に傍点]の友引き[#「友引き」に傍点]だったから、この株とこの株が後場《ごば》になって盛り返したのだ。元来この「友引き[#「友引き」に傍点]」とか「先負け[#「先負け」に傍点]」とかいう日取りの組合わせは聖徳太子の御研究で、人気の移りかわって行く順序をあらわしたものです……この相場の高低表と見比べて御覧なさい。一目瞭然でしょう……現に私はこの
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