ネさんがビックリしちゃってね。その喧嘩の話は決して喋舌《しゃべ》っちゃイケナイって云ってねあの女《ひと》、自分がオセッカイのお喋舌《しゃべり》のもんですから、イチ子さんにシッカリと口止めをしといてから、わざわざやって来てソッと私に知らしてくれたのよ。こちらでも気《け》ぶりにも出さないようにして下さいってね。おかアしな女《ひと》よ。おヨネさんたら……ホホホ。あたし最初、何の事だかわかんなかったわ」
「ああ。その話かい。今朝《けさ》、台所で暫くボソボソやっていたのは……一体何の喧嘩だい。轟さんと呉羽さんと言い争った原因というのは……」
「妾たち二人を追い出すとか出さないとかいう話よ」
「ナニ……俺たちを追い出す……?……」
「ええ。そうなんですって。何故だかわかんないんですけど」
「……ケ……怪《け》しからん。俺は今まであの轟をずいぶん助けてやっているのに……」
「……そんな事云ったって駄目よ。御恩比べなんかすると馬鹿になってよ」
「馬鹿は最初から承知しているんだ。向うはホンの些《ちっ》とばかりの金を出してくれただけだ。それに対してこちらは、お金で買えない天才を提供しているじゃないか。しか
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