も有らん限りの生命《いのち》がけで……」
「お兄さん馬鹿ね。そんな事云ったって誰も相手にしやしませんよ」
「一体ドッチが俺たちを追い出すと云うんだ」
「轟さんが追い出すって云うのを呉羽さんが、理由なしにソンナ事をしてはいけないってね。泣いて止めていらっしたそうよ」
「当り前だあ」
「当り前だかドウだか知りませんけどね。もしソンナ話があったのを妾たちが聞いたって事が警察にわかったら大変じゃないの。お兄さんの極端に激昂し易い性格は、みんな知っている事だし、あの家《うち》の案内は残らず御存じだし……万一、疑いがかかったら大変と思ってね妾ずいぶん心配したのよ」
「馬鹿な……俺はソンナ馬鹿じゃない」
「だって今みたいに昂奮なさるじゃないの……話がわかりもしない中《うち》に……」
「……ウウン……それあ……そうだけど……」
「……ね……ですから妾は直ぐにアリバイの説明の仕方や何かについて考えたわ。……ずいぶん苦心したことよ」
「そんな事は苦労する迄もないじゃないか。昨夜《ゆうべ》はチャントここに寝てたんだから……」
「まあ。そんなアリバイが成立する位なら苦心しやしないわ。お兄さんたら探偵作家に似合
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